中学3年生。夏。
同じクラスの女の子に惚れていた。
ぞっこんだった。
4月のクラス替えによって同じクラスになった女の子に一目惚れをした。
見た瞬間にもうすでに惚れているような感覚だった。
SLAM DUNKで宮城リョータがマネージャーの彩ちゃんを見た瞬間に惚れていたと言ったいたが、そのような感覚だ。
すごくかわいくて勉強ができる子だった。
夢中だった。
どういう男がタイプなのか、どうすれば付き合えるのかばかり考えていた。
当時、童貞でキスすらしたことがない僕はろくに彼女と話すこともできないまま季節は初夏に入っていく。
ふと見ていたテレビ番組で芸能人が学生時代に夏休みに入る直前、1学期の終業式に女の子に告白をしたというエピソードを語っていた。
なぜ終業式かというと、もし告白が失敗しフラれてしまったとしても学校が夏休みに入るためしばらく会うことがなく気まずい思いをしなくてすむからという理由だった。
(なるほど............これだな!)と感じた僕は彼女に告白する決意を固める。
実際に終業式の日だったかはもう思い出すことはできないが、夏休みに入る直前に告白をした。
平日の夕方。17時頃だったと思う。
彼女と幼馴染で彼女の近所に住む友人と彼女の家の前まで行った。
当時、携帯電話は持っていたが彼女の電話番号もメールアドレスも知らなかった僕は、彼女をどこかに呼び出すことも電話で告白することもメールで告白することもできなかった。そのため彼女の家にアポなしで行き告白するという猪突猛進型の告白をすることに決めた。
もっとも電話やメールでの告白はしたくないのだが。
彼女の家の前の交差点の角に隠れながら、心臓が破裂しそうなほど緊張して
(いやいや無理ムリいいいいhdkzh♪dchおbcぶんづbしんくふぉcぶお今日はもう帰ろう帰ろう帰ろうよ茜色に染まる道をおおおおおおおお)
と20分ほどパニックになっていた僕のことをシビレをきらさずに温かい目で見守ってくれていた友人には大変感謝している。
なかなかインターホンを押せずにウジウジしていた僕は、歌を聴いて勇気も貰おうと持っていたipod nanoの電源を入れる。
「最近体調は悪かないが心臓が高鳴って参っている♪」
「追い求めた理想を現実に変えていくんだ♪」
(追い求めた理想を現実に変えていくか.....!)
友人とスキマスイッチに勇気をもらいようやくインターホンを押す。
母親が出る。
母「どちらさまでしょうか?」
僕「〇〇さんと同じクラスのみるめと申しますが〇〇さんはいらっしゃいますか?」
母「...ちょっと待ってね」
漫画「バクマン。」で高木が小豆の家のインターホンを押すシーンがあるが、あんなに躊躇しない男子中学生はいない。ましてやこちらは今から愛の告白をしようとしている。真城と高木のような温い告白ではないのだ。結果的に真城はプロポーズしてしまうのだが。
自分でもわかるほど鼓動が早く動いている。
今まで生きてきた中で死ぬほど緊張したことは何度かあるがこのときの緊張は人生でも最大級の緊張だった。
彼女が出てくる。
もうこれ以上緊張することはないと思っていたが彼女が出てきた途端、更に鼓動が早くなる。
私服姿の彼女を初めて見た僕はもうそれだけで幸せだった。
(ああ、かわいいな)と心底思う。
しかし、彼女の不安そうな表情が僕の緊張をさらに加速させる。
シミュレーション通りの告白ができた。
頭で思い描いていた通りの告白ができた。
もうはっきりとは覚えていないが「好きです。付き合ってください」というストレートな告白だったと思う。
答えは保留だった。
告白の後、待っていてくれていた友人とまた30分ほど公園で話して解散した。
家に着いてからも鼓動は鳴りやまない。
しばらくの間、興奮状態だった。
数日後。フラれた。
付き合えるとは思っていなかったがいざフラれるとね、めちゃくちゃ辛いですわ。
「こうなることはわかっていたなんてのは嘘で、少しくらいは君を笑わせる自信があった」というような感じでした。
当時の僕は「さみしい僕」知りませんでしたけど。
2回目の告白はたぶん電話でしたと思う。
あまりはっきりとは覚えていない。
電話で告白をしてまた保留で結果的に電話で返事をもらったのだと思う。
3回目。
3回目の告白でダメだったらもう諦めようと決めていた。
ほんとに諦めるつもりだった。
3回目は手紙を書いた。
手紙にも「これ以上迷惑をかけたくないからこれで最後にします」というようなことを書いた。
彼女は双子で弟が同じ学校にいた。
想いを込めた手紙をその弟に託し彼女に渡してもらった。
体育大会の前だったから9月の前半だったはずだ。
数日後、家に電話がきた。
出ると彼女だ。
(頼む......!)と普段神様を信じていないが神頼みをしていた。
神様からしたらなんて都合のいい人間なんだ。
「受験控えてるからあんまり遊べないけど、、それでもいい?」
と彼女は言っていた。
勉強ができる彼女らしい返答だった。
少年のような屈託のない笑顔で「うん!!!!!!!!!!!!」と答える僕。
電話での会話だが、満面の笑みだったと思う。
電話を切った後、自分の部屋で叫びにもならない言葉を叫ぶ。
25年生きているが、一番嬉しかった瞬間は未だに夕日が差し込む自分の部屋で「じゃあこれからよろしくね!」という大好きな女の子の声を受話器越しに聴くことができたあの瞬間かもしれない。
それからの毎日はまさに薔薇色だった。
大橋卓弥が歌うように追い求めた理想を現実に変えることができた僕は有頂天だった。
同じクラスであったため学校に行けば彼女の顔を見ることができ、声が聴ける。
それだけで学校へ行く足取りは軽くなった。
しかし出会いがあれば別れもある。
中学を卒業して、高校の入学式の前日。
彼女から電話が来た。
「明日からお互い新しい生活も始まるし、もう終わりにしたいなって....」
なんとなく予想はしていた。
彼女は僕の頭脳ではいけない市内の公立高校に進学した。
高校に入学すれば中学よりもたくさんの出会いがある。
彼女は最初から僕のものではなかったんだ。
半年間、僕のものだと思っていただけだ。
こうして僕の淡くほろ苦いFlavor Of Lifeは幕を閉じた。
彼女は今では結婚して幸せに暮らしているということを風の噂で耳にした。
どうかこのまま結婚生活を幸せに過ごしてください。
最後はフラれてしまったが、彼女を好きになったこと、3回も告白をしたことを僕は悔いていないし、なんなら誇らしい気持ちになれた。
それだけ一人の女の子に夢中になれることは男として良いことなんだと思った。
女の子を好きになり告白をしてフラれたとしても簡単に諦めるべきではないこと、想い続けていれば叶うことだってある、ということを彼女から教えてもらった僕ですが
高校に入学して、一人の女の子に5回告白し5回フラれ、しつこすぎてめちゃくちゃ嫌われました。
おしまい